3月12日(金曜日)

スポーツコラム

◇全国施設巡り~滋賀編~(2010/3/3)
設計を依頼された建築家ウイリアム・メリル・ヴォーリズ氏の洒落っ気が感じられるオブジェ。児童達が、このオブジェを愛おしむ姿を古川氏は微笑みながら見守っていたことだろう。(豊郷町HPより)
  滋賀県の湖東地方に位置する田園地帯に、近代的な新校舎と歴史と趣が感じられる洋風建築の旧校舎が同じ敷地に建ち並ぶ小学校がある。全国的にも珍しいこの小学校は、犬上郡にある豊郷(とよさと)町立豊郷小学校である。数年前、建て替え計画が起こり、地元住民や卒業生の保存運動で新聞やニュースに取り上げられたため、記憶に残っている人も多いだろう。

 この豊郷小学校旧校舎は、豊郷町で生まれ育った一人の近江商人が私財を投げ打ち建設した。その近江商人とは、丸紅の専務として商才を振るった古川鉄次郎氏である。昭和 12年に故郷への恩返しとして古川氏により建てられた校舎は、そのスケールの大きさから、当時「東洋一の教育の殿堂」と言われた。40,000平方メートル(1,200坪)の広大な敷地には、実習農園の水田・田畑や蓮池が配され、体育館、プール(幅10m、長さ25m)、陸上トラック(100m直線コース、200mトラック)、テニスコート、バスケットコート、バレーコートなどの体育施設があったとされる。(残念ながら現在では新校舎建設により校庭が当時より手狭になっているが、)文武両道を目指す古川氏の理想的な教育環境への想いが具現化されている。

 現在、旧校舎は一般公開され、内部を自由に見学することができる。鉄筋コンクリート造り校舎の先駆けとして建てられた3階建ての校舎をはじめとして図書館、階段式の講堂など現代でも劣らない落ち着きある建築は、今なお学び舎としての風格を放っている。展示室には、資料や当時の様子を伝える写真が飾られ、恵まれた施設でスポーツを楽しむ当時の小学生の屈託のない笑顔が大変印象に残った。スポーツに親しむ余裕すらなかった戦前の小学校に、このように充実した体育施設が提供され、教育関係者は嬉しい戸惑いを感じたことだろうと施設を眺めながら当時に想いを馳せた。

 昨年度の「自治体スポーツ環境調査」によると、年間スポーツ関係予算が1億円以下の市が全国で40%であるのに対して、7億円以上の市が12%存在する。市町村合併が進み、スポーツ行政においても広域的発想が求められている。その地域の首長が学校における体育・スポーツの意義や社会的機能を理解し、重視するか否かは、スポーツ政策へ大きな影響をもたらしており、スポーツ環境整備における地域格差の拡大に多大なる影響を与えている。

 さて、立派な施設はさることながら、校舎内を散策すると目を奪われる場所があった。それは、幅3mはあろうかという「階段」である。階段には、なんと『ウサギと亀』のおとぎ話にちなんだウサギと亀の真鍮のオブジェが施されている。1階ではスタート地点に並んでいるウサギと亀、2階では油断して居眠りをしているウサギを横目に必死で進む亀、最上階には、ウサギに勝ち、ゴールした亀と落胆するウサギの様子が表されている。
大勢の児童がこのオブジェに触れ、愛おしむことで人生の教訓としたであろうことは、想像に難くない。

 見学を終え、後ろ髪引かれながら車に乗り込んだ際、ふと手にしていた豊郷町観光協会のガイドマップの一文が目にとまった。そこには、「一文(いちもん)の支出をも惜しみ始末に徹しながら、一方では公共のために千金を投げ打っても悔いはなし」という近江商人の教えが記されてあった。
 
 帰路につく道すがら、高速道路沿いの企業看板に目を奪われながら、企業の地域貢献活動が盛んになりつつある中、本県でもプロスポーツクラブの支援をはじめ、スポーツ振興にあたり多くの地元企業よりご協力をいただいていることにあらためて感謝の念を抱いた。
 経済の停滞により、閉塞感の漂う今日だからこそ行政(国のスポーツ予算)も 「スポーツをしたり、見たりすることによって快適で心地よい豊かな生活を送れる」スポーツ文化を育むことに千金を投げ打つ価値があるのではと思いつつ鳴門海峡を渡った。(天羽)
[写真説明]
 設計を依頼された建築家ウイリアム・メリル・ヴォーリズ氏の洒落っ気が感じられるオブジェ。児童達が、このオブジェを愛おしむ姿を古川氏は微笑みながら見守っていたことだろう。(豊郷町HPより)

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